2021年12月15日
今まで自分の中で貼ってしまっていた「トランスジェンダーだから出来ない」「トランスジェンダーはしてはいけない」というレッテル。 何をするときにでも、「これは正しいのだろうか?」と自問自答し、言動や行動が消極的になってしまうこともしばしばありました。 そんな中、これまで行ってきたさまざまな活動の中で自分自身の考え方や周囲の状況も変わり、トランスジェンダーに理解を持つ方々も増えてきた昨今、 トランスジェンダー当事者の目線で、変化してきた日本のライフスタイルの今についてをコラムで綴って参ります。
「公衆浴場でのトランスジェンダーの入浴はNGまたはタブー」というイメージを多くの人がお持ちではないでしょうか。
男湯?女湯?どちらが正解?どちらも不正解?など思うところは色々あり、今までの世の中の考え方ではタブー視されてきたことは十分承知しております。
さて公衆浴場や温泉施設を利用する場合、まず脱衣場に向かう前に受付を済ませるのが一般的です。
銭湯であれば番台というところです。
受付のスタッフさんは客の見た目で男湯または女湯のどちらに入浴して良いか、するべきかを判断していると思われます。
ここで「自分は男湯?女湯?どちらに案内されるんだろう?」という不安が脳裏をよぎります。
そのため性別移行途中の人でも衣服を着た状態の容姿が「一般的な女性」とスタッフさんに判断された場合は女湯へと案内され、女湯の暖簾をくぐることになります。
さて、本番はここからです。
脱衣所に入ったあとは、当たり前のことですが衣服を脱ぎます。
そしてこの行為こそが一番ハードルが高いポイントだと私は考えます。
公衆浴場では脱衣所で衣服を脱いだあと、手ぬぐいサイズのタオルを持ち浴室に向かうのが一般的です。
バスタオルで体を終始覆い隠し、そのまま浴室内や湯船に入ることはマナー違反となるため、 どこかのタイミングで必ずタオルをとる必要があります。
これは全裸を人目に晒すことであり、誰でも少し恥ずかしさを感じる瞬間ではないでしょうか。
もし性同一性障害の診断書を持っていたとしても、入浴したい浴場の性別と自分の性器の見た目が合致しておらず、騒ぎやトラブルに発展する可能性もあります。
つまり性同一性障害者やトランスジェンダーが人前で全裸を晒すということは、一発で自分のセクシャリティをカミングアウトすることになるのです。
トランスジェンダーの中でも性別移行途中の人は自分の身体の見た目が特に気になります。
他人の前で裸をさらけ出すことは普通したいと思わないでしょう。
また性別適合手術を受け、戸籍の性別を変えた人でも公衆浴場や温泉施設に行くのを戸惑う人も少なからずいると思います。
その理由は、自分が「元女性」や「元男性」と言われたり思われたりするのが嫌だと感じるというのもあります。
しかし、本音では「大きなお風呂に入浴したい」というトランスジェンダーは少なからずいます。
家のお風呂では味わうことのできない温泉などの大きなお風呂は、性別に関係なく気持ちの良いものですからね。
わたしを含め「公衆浴場や温泉施設を純粋に楽しみたい」というトランスジェンダーの思いを実現しやすくするためには何が必要だろう?と考えてみました。
今すぐにできるアイデアとしては、前述したような誤解やトラブルなどを避けるために事前に利用したい旨と事情を施設の方にお伝えするのがひとつの手かなと思います。
ただし利用できるか否かは施設側の判断になり、利用の際には望まないカミングアウトをすることにもなるので注意が必要です。
家族風呂や貸し切り温泉などを利用すれば問題解決のように思えますが、実際には利用時間に制限があったり、料金が割高であることも否めません。
今後は施設側にトランスジェンダーの中にも「公衆浴場や温泉施設を利用したいと言う人達が少なからずいる」ということを、まずは知ってもらうことが大切だと感じます。
知っていただいた上で、トランスジェンダーが訪れた際の対応を事前に決めておいて頂けると嬉しく思います。
これは利用する側(トランスジェンダー)も利用される側(施設)も、いざという時にあたふたしないためでもあります。
現在、トランスジェンダーが利用できる公衆浴場や温泉施設が全国に広がりつつあります。
しかし、まだまだ利用できる施設は限られているのも事実です。
この先々、さらにトランスジェンダーの人たちが利用できる公衆浴場や温泉施設が増えていくためには、まずは前途したように利用を希望するトランスジェンダーが存在していることを知ってもらうこと。
さらには全国の公衆浴場業界の皆さまの横の繋がりで今後の取り組みについて協議をしていただき、トランスジェンダーもその他の皆さまも心地よく利用できる仕組みができていくと大変嬉しく思います。
トランスジェンダーの皆さんも一度、公衆浴場施設を利用するとそれまで懸念していたことがウソのようになくなくなり、利用するハードルが下がる人も多いと感じます。
誰でも入れる公衆浴場や温泉施設が全国に広がっていくと嬉しいですね。
津田まり
1981年に、維新の風吹かれる山口県に生まれる。
短大時代に学園祭実行委員を務め、イベントを作り上げる喜びを学ぶ。
18歳の時にホルモン療法を開始し、34歳の時に国内で睾丸摘出手術を受ける。
その後37歳の時に国内で性別適合手術を受け、女性の身体を手に入れる。
また大阪市のパートナーシップ宣誓証明制度を利用し、戸籍上の性別を変更した。
性別移行中の就職活動ではトランスジェンダーということもあり、なかなか採用に至らないこともありましたが、多数応募した企業の中の一社に「トランスジェンダー女性」として採用をいただく機会に恵まれました。
現在ではトランスジェンダーやトランスジェンダー予備軍の方々が集い、情報交換や交流を目的としたLGBTQ団体「BLUE&PINK」を設立し、代表を務めています。
ここではLGBTQに関する研究などで理解を深め、幅広く知っていただくための活動を行い、大学や企業等でLGBTQの啓発に関する講師を務めたり、LGBTQイベントの主催やLGBTQ当事者からの相談業務を行なっております。
近年は地方での活動も多く行なっており、出向いた先でのご当地グルメを楽しむことが幸せを感じる瞬間です。
最近一番感動したのは岡山県でいただいた「祭りずし」という、海産物がたくさん乗ったご当地ばら寿司が最高でした!
もし地方講演などでわたしを見つけていただいた際には、美味しいものをいっぱい教えてくださいね笑